インプラント治療スタイルは、国際・日本口腔インプラント学会所属院長が、インプラント治療難易度や種類、医院ごと特徴・費用差がなぜ起こるか?など疑問を解説。

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インプラントメンテナンス

インプラント周囲の歯肉が炎症を起こす?

インプラントは一生ものと思いたいものです。考えてみてください。どうして歯を失ってしまったのかを。歯周病で歯を失っている場合には、お口の中では、歯周病菌がそのまま存在しているでしょう。インプラントも歯周病になってしまう可能性があるのです。

呼び名は変わりますが、歯肉炎にあたるものが、インプラント周囲粘膜炎。歯周病にあたるのが、インプラント周囲炎と呼ばれています。

インプラント周囲粘膜炎(炎症が、インプラント周囲の組織に限局、骨は大丈夫だが、発赤、腫脹はある状態)

インプラント周囲炎(炎症がインプラント周囲の組織を越え、骨にダメージがあり、発赤・腫脹・膿が出る状態)

このインプラント周囲炎が、機能して5年経過したもののうち、20%くらい起きているというデータがでているのです。

研究・統計の中では、もっと多いものもあり、頻度の高いものとなっています。

歯周病菌は嫌気性菌ですが、歯周がポケット5ミリ以上ある場合はインプラントにも影響すると考えられているので、お口の中で、進行性の歯周病がある状態とインプラントが混在する場合には、リスクが高まるといえるでしょう。また、インプラントは粘膜を貫通して口腔内に出てきますが、この貫通する粘膜の厚みにも問題があります。上顎の粘膜などは厚く、場合によっては4~5ミリの歯肉の厚みとなってしまうからです。しかも、上顎の骨は下顎に比べると柔らかく、条件が悪い場合も多いのです。

インプラントと上部構造のセラミックの歯との継ぎ目が歯肉の深い場所にあった場合、接着剤(セメント)の取り残しも起きる可能性があり、それによって人工的な歯石が形成され、炎症の原因となることもあります。

インプラント治療は、天然の歯と比べ、性能として勝ると思わない方がよく、あくまでも歯を失ってしまった場合の最善の選択肢のひとつと考えるべきです。

その天然歯より、性能の劣るインプラントをいかに長期に渡り、温存できるのか?は、メンテナンスをしっかり行うことでようやく達成できる要素であり、安易な手入れであれば、インプラントを失ってしまう可能性すらあるのです。それは、そこの歯の場所が貴方にとってウイークポイントであったために歯を失いやすかったからです。

インプラント周囲には、歯のような歯根膜は無く、歯周繊維はインプラントの周囲をぐるぐる取り囲んでいるだけで、歯のように歯根膜の繊維が歯に刺さったような構造にはなっていないのです。骨とも、歯根膜繊維がないことから、インプラントと骨は癒着のようなくっつき方をしており、歯根膜のようなクッションはないのです。

構造的に違う仕組みの物がお口の中に混在するということは、メンテナンスは自分の歯の時と比べるとより複雑になっていると考えるべきで、より高度化したメンテナンスが求められてしまいます。

インプラント上部構造(上物の歯)とメンテナンスリスク

インプラントは、天然歯と比べると基本的に細く、上部構造は、天然歯と比べ、チューリップのような形態になりがちです。

そのため、歯肉とインプラントの歯の形状は、天然歯の形状に近づけようとするとよりチューリップに近くなってしまいます。そして清掃性は審美性とは、反比例していくので、どこにインプラントと人工歯の継ぎ目をもってくるかは重要です。

しかし、隙間が大きい場合には、清掃性は上がりますが、空気の漏れが気になる人もおり、落としどころは悩みどころです。

毎回悩みながらギリギリの線で治療を進めていくことになります。プラークコントロールがしっかりできてなおかつ審美性が獲得できていることが、ベストですが、粘膜の厚みは場所によって違いますし、インプラント手術後の粘膜の治りによっても厚みは変化します。

骨の形状もインプラントは円柱形ですが、人の顎堤は頬側に傾斜しているため、水平な状態はまれです。自分の歯の場合は、骨の斜面にでもしっかりと生えたままの状態を保つことはできますが、インプラントはそのようにはできていません。

しかし、プラークコントロールできる場合と出来ない場合では、インプラント周囲炎の発症率は10倍近く高くなるというデータもあり、やはり、審美性を若干犠牲にしても、プラークコントロールはしっかりとできる形状にするべきだといえるでしょう。

インプラントは感染に弱い?

結論からすると、インプラントは感染に弱く、炎症の範囲は天然の歯と比べると4~6倍に及ぶというデータがあります。

このようなことを言うと、怖がってインプラントは「嫌・怖い」って拒絶されるかたもいらっしゃいますが、あくまでも天然の歯と比べたもので、授かりものの私たちの身体の一部である歯と人工的につくったインプラントを比べた場合に、インプラントのほうがよく出来ているとはいえませんという意味合いです。

歯を失った場合の、第一選択としては、インプラント治療がベストであることは多く、そのインプラントを長期に渡り安心して使用して頂くには、インプラントについて理解を深める必要はあるのです。

確かに感染には弱いインプラントですが、虫歯にはなりません。チタンは酸で溶けないからです。天然の歯は非常に優れモノですが、酸蝕されてしまうのです。

私は、インプラント肯定派なので、インプラント治療が安全・安心に受けられ、感染リスクをしっかりメンテナンスしコントロール方向の思考でいます。

さて、何が弱いのでしょう。

インプラントの周囲には、防御機能であるいくつかの繊維群がありません(歯牙歯肉繊維・歯牙骨膜繊維・輪状繊維・中隔繊維)。あと血管網が天然歯より少ないのです。

血管網が少ないと、免疫細胞がパトロールしにくくなり、感染が起きた時に、白血球やマクロファージなどがやってきにくくなるのです。

ただ、インプラントの周囲には、コラーゲン繊維は天然の歯周組織より高密度になりますが、繊維芽細胞や血管網は、疎な組成となっています。

ヒアルロン酸の注入は、繊維芽細胞を活性化するので美容だけでなく、インプラントメンテナンスにも有効かなと思っていますが、料金の問題があります。

インプラント周囲の炎症細胞の浸潤(ICT)の範囲は、天然歯の4~6倍の深さがあり、好中球や破骨細胞がより多くみられます。

このように、天然歯と比べると、インプラントは感染には弱いと言えますが、天然の歯を移植することはできても、再生する技術は、現代にはありません。

歯を失った場合には、感染に弱いとわかっていても、第一選択となることが多いのです。人が、天然の歯より優れたものを作り出せるということは期待できませんし、

人がつくったものとしてのインプラントは十分優れものだといえるでしょう。

インプラントの弱点である感染に関して、十分な知識を持ち怖がらず、歯科医師や歯科衛生士を信じて、インプラントのメンテナンスをしっかり行ってください。

しっかり理解することで、弱いことを前提としたプロケアやセルフケアができます。

十分なプロケアにより、インプラントをより長く使用して、快適な生活を楽しめるよう、歯科衛生士と共に、私たちは日々研鑽してまいります。

喫煙によるインプラント歯周炎リスク

喫煙でインプラント周囲炎のリスクはどのようなものが上がるのでしょうか?それは、排膿(膿が出る)とインプラント周囲のポケット6ミリ以上の深さの人が増えることです。

具体的にどのくらい増えるのでしょうか?非喫煙者と喫煙者で排膿は4倍。インプラント周囲のポケット6mmの人は2倍に増えるというデータがあります。

プラーク量や歯周ポケットからの出血は喫煙者と非喫煙者では、あまりかわりません。ただ、インプラント周囲炎に限らず、喫煙者の歯周病の歯周ポケットからの出血が少ないことは、歯周病やインプラント周囲炎の見逃しの多発につながり、危険度は増すことは間違いありません。

タバコのリスクは肺がんだけでなく、歯周病やインプラント周囲炎においても大問題なのです。

インプラント治療を行う歯科医師の中には、タバコを吸う人にはインプラント手術を行わないという先生もおられるくらいの要素です。

私は、そこで、インプラントを入れないために起きる咬合の問題や、義歯やブリッジにするとか、歯をより削らないといけないとかさまざまな問題との兼ね合いの中で、インプラント治療を行うべきかを決めるようにしています。

インプラントを入れるリスクもあれば、入れないリスクもあり、リスク管理は複雑さを増しますが、患者さんにはタバコのリスクを理解してもらい、タバコによってインプラントの寿命が短くなる可能性も把握してもらった上で、タバコを吸うのかやめるのかを決断して頂く必要があるのです。

インプラント周囲病変は不可逆的?

天然の歯の周囲に歯周病菌による感染が起き、いわゆる歯周病になった場合、歯周病の治療的介入を行うことは、一般的ですが、インプラント周囲炎の場合は、実はまだまだどうするのが良いか対処法がよくわかっていないところがあります。

インプラント周囲炎になる前の、インプラント周囲粘膜炎のような初期の場合には、治療的介入することで、回復する可逆的要素はありますが、重度のインプラント周囲炎の場合には、治療的介入は困難なのです。

それは、インプラントの表面構造がチタンを粗造にしたもので、骨から出た部分を歯周病治療のようにきれいにしたり、鏡面にしたりするのが難しく、表面の雑菌を取り除く方法が確立されていないためです。クリーニングで感染源の除去は困難な上に、通常の超音波スケーラーでは、インプラントの鏡面や粗造面を傷つけてしまう可能性があり、傷つけてしまうことで、そこに雑菌が付きやすくなる可能性があるためです。最近では、超音波スケーラーのチップにインプラント用が開発され、傷つきにくいラバー(ゴム状)の先端となり、インプラントに傷をなるべくつけない配慮がなされるようになりました。

インプラント周囲炎の場合、腫脹と排膿が症状の中心で、天然の歯のように、揺れる(動揺する)ということはありません。動揺する場合は、残念ながら撤去せざるを得ない状態になってしまっています。

怖いことばかりお話していますが、いいこともあります。インプラントが動揺し駄目になった場合でも、骨を再生させて、インプラントをもう一度埋入することができることもあるためです。

しかし、感染が原因の場合には、再度インプラントが入っても、同じ状況であれば、またダメになる可能性も高く、何らかの対処が必要となることは間違いないでしょう。

再度埋入できても、炎症が起きた後の、骨の状態は、1回目の埋入時より骨の高さが減っていたり、幅が細くなっていたりと条件が悪化することも多く、再度のインプラント手術を断念せざるを得ない場合もあり、しっかりとしたメンテナンスを行い、インプラントの寿命を延ばす方向の思考が大切です。

インプラント周囲炎の外科的介入効果

インプラント周囲粘膜炎からインプラント周囲炎へ移行した場合、どのような外科的治療法があるのでしょうか?

通常の歯周病の外科的治療法は、長年の治療の結果が沢山あり、エビデンスレベルが高くなっていますが、インプラントは普及してから40年は経過しているので年数が短いというほどではないのですが、研究はまだ道半ばという状況で、手探りな中で、ベストを尽くすというエビデンスレベルです。

歯科医師によるインプラントの外科的治療法として、①フラップ手術 ②切除療法 ③骨移植 ④メンブレンを使用した再生療法 ⑤レーザー療法などがあげられますが、⑤のレーザー療法は効果がみられなかったようです。Schwaizら(2011)比較研究

①のフラップ手術は、従来の歯周病の治療で昔から行われている手術法で、歯周病の治療のように粘膜を切開、歯肉弁を開き、インプラントを傷つけないように清掃し、縫合してふさぐことで、ポケットからの出血(BOP)や排膿の減少がみられたHeitz-Mayfield(2012)

②の切除療法とは、インプラント周囲のポケットが深すぎる場合、清掃が難しく、排膿しやすい状況を粘膜を切除することで、ポケットの深さを浅くし、清掃しやすい状態にでき、インプラント周囲炎には有効だと判断されています。Serino&Turri(2011)

③の骨移植も有効だと判断されています。歯周病でも、骨を失った場合に、自分の骨や人工骨を移植することがあるのと同じように、骨を移植することは効果的な処置であることは、インプラント埋入時にも感染していない状態で人工骨移植がされるのと似た状況です。Wiltfangら(2010)

④メンブレンを使った再生療法でも歯周病の治療と似た考え方で外科治療を行います。GTRの考え方で骨と粘膜では治るスピードが違うため、粘膜を遮断して骨の再生するのを待つことで、新プラント周囲炎には有効で症状が改善したとのデータがあります Jovanovicら(1992)


これらの治療法を組み合わせることで、歯科医師による外科的介入は有効である可能性は高いものの、エビデンスはまだ低く、手法が確立されていないというのが現状でしょうか。

感染したインプラント表面をいかにして無菌化できるかという要素が鍵になると思われます。

歯周病ポケット5ミリの影響

インプラントも自分の歯と同じく歯周病になりますが、歯周病菌が増殖する環境を作り出さないことも重要な要素のひとつです。それは、歯周病菌は、嫌気性菌であり、嫌気性菌が増殖しやすい環境があると、そこで培養され、唾液に乗って、他に移っていってしまう危険性が高まるためです。特にインプラントは天然歯よりダメージを受けやすい為、極力、残存歯全ての歯周ポケットは5ミリ以下に保つことは、インプラントメンテナンスにおいて目安の一つとなっています。

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