インプラント周囲組織にみられる問題点として、機能性の要素と審美性の要素に分けられます。インプラント周囲組織に炎症がみられるのかどうかで、問題点の解決の仕方が分かれます。単純に炎症がない場合での問題点としては、審美的要素が中心となり、その解決方法としては、歯肉退縮を歯周外科により結合組織移植などにより解決できる場合があります。
しかし、炎症を伴う場合は、インプラント周囲炎であったり、インプラント周囲粘膜炎であったりするので、まずは、問題点を見つけ、炎症を取り除くことが必要となり、歯肉退縮などによる審美性の回復は困難になります。
問題となりやすいのが、角化歯肉がしっかりあるのかどうか、日本人の場合は薄い歯肉がおおいということ、接合部のセメントの取り残しの有無、メンテナンスしやすいインプラント環境が作れているのかどうかなどがあげられます。
これらの問題点を後から解決するよりも、インプラントの埋入プランの中にGBRや結合組織移植を入れていくかどうかという問題がまず第一にきます。GBRや結合組織移植というオプションを行うことは、治療期間や治療費用が増大することにもつながるからです。どこまでやるのか、オプションが増えた現代では、プランニングにも何通りかの選択ができるようになってきたともいえるでしょう。
インプラント治療の進化と共に、普通にできることも増えてきました。それに伴い、インプラント治療の金額もデフレのインプラント治療と突き詰めるインプラント治療の2極化が進みそうです。
上顎洞には、粘液膿胞が良くみられます。耳鼻科では、積極的にとりましょうという話にはなることはなく、そのまま残っていることが多いのが現実です。粘液膿胞には、無色から黄色の柔らかく吸えるレベルの粘液の場合と、硬くて吸えない粘液の場合があります。柔らかい粘液と硬い粘液の比率は7対3で、吸えることの方が多いのですが、硬い場合は厄介です。
粘液膿胞がある部位にインプラントを埋入予定とする場合、ソケットをあけ、粘液を吸いだして4か月程治癒を待ちます。その後、人工骨を填入後、インプラントを埋入することになりますが、粘液が吸い出せない場合は、問題ありです。CT上では、粘液の硬さは判りえないためです。粘液には問題がなくても、炎症性細胞浸潤はみられるので、柔らかい粘液膿胞に関しては、3ヶ月程治癒期間をおき、その後、インプラント治療に入るほうがいいようです。
また、上顎洞は抜歯すると、含気化し骨量が減っていく傾向がありますが、骨が吸収しにくい人もおり、わからないことが多いことも事実です。
以前は、上顎洞粘膜を傷つけると、扁平上皮化し、洞内の粘液が排出されないと言われてきましたが、再生力の強い洞粘膜組織であることもわかってきました。
さて、サイナースリフトやソケットリフトを行う場合、人工骨移植を行いますが、特にサイナースリフトの場合、傷口としてのトラップドアの窓が大きくそこの部位から漏れる人工骨が問題となっています。それは、術後1週間後上顎洞内は腫れ上がり、炎症が充満します。その時の上顎洞内からの圧力が強いために、人工骨がもれると考えられています。。そこで人工骨がもれるかどうかが、サイナースリフトの成功につながるといえるようなので、しっかりとした閉鎖は重要だといえます。
術後の感染に関しては、自家骨が一番いいように感じますが、感染してしまった場合は、腐骨化するリスクが伴います。それに対し、βTCPは、3か月後位から洞内の骨と溶け合い、9か月くらいでくっ付き始めると考えられ、2~3年で骨様組織になると考えられていますし、感染にも割合強いといえるでしょう。それに対しHAは非吸収性のため、いったん骨がしっかりできた感がでますが、骨に強度が不足するせいか、長期的予後には不安が残ります。βTCPとHAを混ぜるという選択肢もありますが、コスト面が問題となるでしょう。
まず、インプラントの治療の成功レベルを分類(徳島大学 市川教授による)
基本的なレベルから
1、良好なオッセオインテグレーション(骨結合)の獲得(的確な診断、手術、創傷治癒)
2、短期的成功(審美的、機能的満足)
3、中長期的成功(咬合、ぺリオ、メンテナンス)
4、人生の最終段階への対応(装着の可変性、ケアのしやすさ)
となるそうですが、治療時の患者さんの年齢、要望、状況に応じてそれぞれの成功レベルを目指すことになります。
簡単なようですが、とてつもなく大変なことです。患者さんの人生と向き合って始めて完結するようなテーマだからです。患者さんが介護になった時のことまで考え抜けるのか、また、歯を残すリスクについても考える必要があるといえます。日本では、健康保険により安価な治療が国中に行き渡っており、歯を抜く歯医者は悪い歯医者という概念が、染みついてしまっています。最近では、海外のレベルに近い考え方となっていますが、それは、失活歯でヒビが入っているものや、歯質が薄いもので、数年で抜歯に至ると想定される歯については、高額な治療費を払ってまで治す価値がないものは、抜歯するという概念が定着しつつあるということです。根管治療の専門医による失活歯の治療があたりまえとなってくると、このような概念が出現しますが、海外では、根管治療の専門医による治療が当たり前なので、近づいているといえるでしょう。この考え方が普及していくと、10年後に治療をやり直しになるといったリスクは減少するでしょう。このような歯とインプラントでは、どちらが寿命が短いのかという比較でいうと、インプラント周囲炎になってインプラントが駄目になる確率と失活歯の薄い歯やヒビがみられる歯では、インプラントのほうが、長持ちする可能性は高くなります。介護になった場合、歯磨きが困難になり、インプラントのケアと自分の歯が虫歯になるリスクだと意外とインプラントは平気で、自分の歯が虫歯になって痛みが出たり、治療が必要になったりするリスクの方が高い可能性すらあるという考え方です。
生活歯と失活歯では明らかに寿命が違うのです。また、パワータイプとして歯ぎしりによる影響が考えられます。失活歯は咬合力に耐えられず、割れてしまうことが多いからです。
咬みあわせが正常咬合のアングルI級であるのか、Ⅱ級であるのか、Ⅲ級であるのかによっても歯やインプラントの寿命は違います。不正な位置に歯があることのリスクも影響するのです。
インプラント治療を行う患者さんの多くは、50代以降となりますが、平均寿命が85年だとして30年位のプランが必要となるのです。ライフプランに応じたインプラント治療の設計は50代の人の治療と、70代の人の治療ではおのずと違ってくるはずです。メンテナンスのしやすさや、失っている歯の本数に合わせた設計が求められることになるでしょう。
歯科用CTが普及してきていますが、CTのウイークポイントとして、お口の中にクラウンなどのメタルが入っている場合、ハレーションを起こすため、メタル部分に関しては良く見えないということが起きてきます。レントゲン技師さんは、インプラント治療を行う部位を把握して、ハレーションによる影響が出にくいように、角度を変えたり、ソフトにより消したりしてくれています。ィンビザライン部分矯正でも驚きましたが、模型を3Dスキャンしてデジタルデータ化することで、マウスピースを3Dプリンターでつくることで歯科矯正するという素晴らしい技術と同じ流れの話ですが、インプラントのCTのデータと歯列模型の3Dスキャナーによる(STLデータ)を組み合わせることで、より正確な3D画像が作り出せるようになってきたというのです。当然ガイデットサージュエリーを行う場合のガイドの精度が上がっていくことで、より正確なインプラント埋入位置が想定されることにつながり、安心・安全なインプラント手術が行われやすくなるということを意味します。問題もあります。インプラント埋入本数が多い場合はガイドの製作もコスト面で問題ありませんが、少数歯の場合は、ガイドがあってもなくても、周辺の歯の位置により、埋入位置が限定されるため、大差ないことも多いからです。
しかし、費用が多く掛かってもガイドを使用したいという希望が出た場合には、対応することは可能であり、選択肢が増えるということは素晴らしいことではあるでしょう。
歯槽骨には、硬いところと柔らかいところがあり、皮質骨と海綿骨の比率もまちまちです。
下顎のオールオンフォーの概念では、左右後方のインプラントは、遠心から近心に傾斜して埋入することも多いですが、骨のたわみが少なく、骨は硬くオトガイ孔間はひずみがすくないためです。骨のたわみで、インプラントフィクスチャーが折れたりする可能性があるので、ひずみとたわみとインプラントの埋入角度も大切な要素だといえます。
早期のイミディエートローディングさせる場合、フィクスチャーは、上の皮質骨から6㎜くらいまでに力がかかるため、ある程度の長さは必要ですが、どんなに深く長いインプラントを埋入しても変わらないと言われています。特にカンチレバーの最後方部のインプラントのしかも遠心部に力がかかるためにオトガイ孔間の最後方インプラントの傾斜埋入というスタイルが確立されているといえるでしょう。
オールオン4のように4本で、全てを賄うという概念は画期的ではありますが、そのうちの1本でもアバットメントが折れたりしてダメになった場合はどうするのか、リカバリーができる設計であるのかなどを考えると、時代は、超ロングインプラントから超ショートの4㎜インプラントの時代に入ろうとしているようです。
昔のインプラントフィクスチャーはラフサーフェイスではなかったため、インテグレーションは難しくても、骨吸収してきた後の経過は緩やかな骨吸収がみられましたが、最近のインプラントフィクスチャーはラフサーフェイスであるため、インプラント周囲炎を起こしやすいといえます。タイユナイトのようなサーフェイスでは、いったん周囲炎が発生すると進行が速いというデータが多数発表されており、値段の高いインプラントが必ずしも、いいという訳ではないなと感じさせられる要素でもあります。
例えば、前歯のインプラントは深く埋入されるケースが多く、審美性を獲得するためには仕方ないこととされていますが、実際にはプラークコントロールは難しくなります。貫通している部分の深さが深い訳ですから、炎症があるのかないのかという問題なだけで、深い歯周ポケットのようなものです。また、ボーンレベルのフィクスチャーでは、アバットメントやスクリューも複雑化していき、フィクスチャーとアバットメントの接合部も深いため、セメント合着は難しく、セメントの取り残しが原因の周囲炎も多く発生することも現実です。
10年で20%くらいがインプラント周囲炎になると言われていることを考えると、(粘膜炎3~5㎜、周囲炎4~6㎜程度)インプラントメンテナンスは重要となります。次亜塩素酸やクロルヘキシジン、クエン酸やアミノ酸のパウダーなど有効とされるものはありますが、完治する訳ではありません。半年位でリバウンドすることが多くみられます。通常の歯のクリーニングでも、嫌気性菌はいったん減りますが、3ヶ月くらいで元の菌叢に戻ってしまう訳ですから、インプラントだけ大丈夫という訳にはいかないようです。しかし、乳酸菌などにより、常在細菌の構成が変わると少し良くなるのかもしれませんね。
インプラント周囲に角化歯肉が多いのは有効であるとの概念は昔からありますが、FGG(遊離歯肉移植術)の頻度は高まるばかりで、昔は骨の移植はしても粘膜まではいいかなとなるべくやらないでおくことが多かったのですが、時代はこのオプションは当然という流れになってきていますね。
ガイドを使うと適切な補綴までの診断ができるため、補綴がしやすい位置にインプラントの埋入が可能となり、補綴はらくになること間違いなしでしょう。また、抜歯窩にインプラントを埋入する場合、フリーハンドより抜歯窩に引きずられにくく、予定していた位置への埋入のしやすく、確実な埋入を行うには有効だと言えるでしょう。
しかし、ガイドは、歯の位置が不正確な状態(理想的な歯のポジションにないことも多い)ため、単純に歯並びに合わせただけのガイドの場合には、歯並びには合っていても、長期での咬合や審美的要求は満たされないことも多いということになります。まあ、理想を追求するときりがないといえばきりがないのですが、歯並びの位置が狂っている場合、必要な場合には、矯正もオプションのひとつとして用意した上で、インプラント治療を行う必要性があるといえるでしょう。もともとのポジションが悪く、Ⅱ級やⅢ級の場合やオープンバイトの場合など、歯にかかる力のバランスが悪い場合には、インプラントの位置も理想ではない場合が多いということはそれはそうだと思いますが、患者さんみんなが皆そこまでの治療が行えるかどうかはまちまちなのも現実です。安価でインプラントを入れられる時代になり、普及してきてくると、歯医者はどんどん追及してしまうので、矯正も必須となっていくのかもしれません。
インプラント治療を始めて18年が経ちますが、インプラントの予後から考えると、全く問題のないもの、フィクスチャー周辺に問題が出てくるもの、上部構造に問題が出てくるものなどさまざまな問題を経験することにより、これらの問題点を踏まえた治療計画ができるようになるのは、経験値が増したということではありますが、患者さんは個々に違うため、全く同じということもありません。しかし、10年という年月でいうと、意外とインプラントは平気で、自分の歯が駄目になってしまうことで、治療をし直すというケースが多いのです。根管治療を行ってある歯に関して、歯質が薄いものでも、患者さんは、歯を残したいと考える訳ですが、やはり、割れてきて抜歯というケースが多いのです。また、天然歯とインプラントは連結しないルールになっていますが、インプラントは動かず、天然歯は動くため、歯間に隙間ができて、レジン修復して隙間を埋めたり、クラウンを作り直したりということもよく起きます。10年という単位で考えると、咬合までもがかわってしまうということです。
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